「そんなに後ろにいて、聞こえますか?」
先週は平和な日が続いていたのに、金曜日は、嵐の一日でした。
いいえ、天気の話ではありません。
職場での出来事です。
私の職場では、朝礼があります。
始業時間になると、各部署で集まり、責任者がその日の予定や注意事項などを伝達します。
現場では、エアコンや大型機材の音が響いており、小さな声はかき消されてしまいます。
この日も、いつも通り、10人足らずで輪になって集まり、責任者が予定を皆に伝えました。
朝礼が終わって、自分の持ち場につこうとした時のことです。
「そんなに後ろにいて、(朝礼が)聞こえますか?」
振り向きざまに目を吊り上げて、こちらをにらんでくる女性がいました。
彼女はいわゆる「お局様」です。
ここでは、仮名として「つぼねさん」と呼ぶことにしましょう。
つぼねさんは怒りに震えていました。
私は、そばにいた別の女性と目が合いました。
別部署の女性は明らかに(ヤバイ)という顔をして立ち去りました。
「そんなに後ろにいて、朝礼の声が聞こえるんですか?!!!」
つぼねさんは、しつこく詰め寄ってきました。私は、即座に答えました。
「はい! 聞こえます!!」
すると、つぼねさんは何か言いたげでしたが、それ以上は何も言ってきませんでした。
彼女は、おそらくこう言いたかったのだと思います。
「そんなに後ろにいたら、朝礼の声が聞こえないから、もう少し前で朝礼に参加しましょう」
実のところ、朝礼の声はあまり聞こえませんでした。
でも、私には直接関係のない伝達事項なので、「まあいいか」と思っていました。
はっきり言って、つぼねさんにも直接関係ない伝達事項なのですが、
私が後ろにいたのが気に入らなかったのでしょう。
仲良くなった別部署の女性と挨拶して気持ちよく仕事が始められると思っていたのに、
朝から緊張感と嫌な空気がただよってしまいました。
でも、気を取り直してお仕事です!
「わからないところは、もうないの?」
私の席は、つぼねさんの隣です。
ベテラン社員の彼女から、私は仕事を教えてもらいます。
しかし。
「わからないところは、どれ?」
明らかに機嫌が悪いつぼねさんは、冷たく言ってきました。
私は、答えました。
「この、リストを開いていただけますか?」
しぶしぶ、パソコンの画面を開いて確認するつぼねさん。
彼女は一覧を見て、ため息をついて画面を印刷しました。
一通り、内容を修正して作業は完了しました。
私は、つぼねさんの作業内容を見て聞いて、それをメモに書いていました。
すると、突然彼女の鋭い声が飛んできました。
「ノートを書いていないで、こっちを見て!!」
え??
つぼねさんは、私がメモを取っている間に、次々と画面を開いて何やら入力し、一人で勝手に作業を進めています。私がメモをするのを阻止してきます。
仕事を教えてもらっても、メモする時間すら与えてもらえないのです。
そんな状態が続くので、こちらも仕事のやる気が失せていきます。
でも、この人から仕事を教わらないと、私は業務ができないので、ここはぐっと堪えていくしかありません。
忍耐が必要なのです。仕事で嫌なことや我慢したことの対価が、給料だと思っています。
早く、一人前になって、つぼねさんから仕事を教えてもらわなくてもいい状態になりたいのです。
「わからないところは、もうないの?」
そっけない言葉が投げかけられました。
「はい、今のところ、大丈夫です!! ありがとうございました」
私は、はっきりと、笑顔で答えました。つぼねさんは、なんだか不服そうな表情でした。
もっと、色々と質問されたかったのでしょう。そして、私の質問に対して、ねちねちと無駄な解説を繰り広げるのが彼女の得意技なのです。でも、その手には乗りません。
会話はなるべく短く、必要最小限の会話を心掛けていくのです。
私は、仕事をするためにここに来ているので、彼女の話し相手になるために出勤しているのではありません。
「わからないなら、もういいです」
最初に断っておくと、私はパソコンの文字や数字の入力は得意ですが、エクセルは得意ではありません。
つぼねさんにも、前にそのことは伝えたはずでした。
しかし。彼女はエクセルの表を開いて言いました。
「昇順に並べかえできますか?」
???
私が戸惑っていると、「わからないなら、考えずにわからないと答えてください!」と言われました。
「おっしゃっていることがよくわかりません! 昇順に並べ替えすることはできますが、範囲を教えていただけますか?」
わからないから、素直にわからないと伝えました。
「わからないなら、もういいです」
つぼねさんは、そう言って、エクセルの表を自分で開いてどんどん作業を進めていきました。
そして、大量のデータについて昇順の並べ替えが完了しました。
本当なら、私に教えないといけない内容だと思われますが手順の説明は全くせず、彼女は一人で作業をして終わらせてしまいました。
私は、唖然としてしまいました。
でも、もういいやと思いました。
私の仕事を、つぼねさんが勝手にやってるのなら、逆にラッキーと思うことにしました。
そうです、私は隣でボーっとしていたら良いのです。
教えてもらえないことは、できません。
データの入力作業が終わる頃に、チャイムが鳴りました。
お昼休憩です。
ホッと一息をついて、私は休憩室でお弁当を広げました。
「言い訳はいいから」
昼休憩から戻ると、つぼねさんが昼休みを返上して仕事をしていました。
机や隣の椅子の上にまで資料が散乱し、誰から預かったのかわからない小銭も置いてありました。
こんなに散らかして、仕事がうまく進むのだろうかと疑問です。
つぼねさんの心と頭の中も、こんな風にぐちゃぐちゃになっているのではないかと感じました。
昼休みが終わる頃、事務所に女性社員がやってきました。備品の交換かと思ったら、絆創膏がほしいと言われました。どこか怪我でもしたのでしょうか。
私は、救急箱から、絆創膏を取り出して差し出しました。
「2枚ください」
そう言われたので、2枚渡しました。そして、女性社員が立ち去りました。
「絆創膏は、2枚と言われましたか?」
すぐ後ろに座っていた、つぼねさんが飛んできました。
「はい、2枚です」
つぼねさんは、急に小声で言います。
「無料でもらえるから、多く取っていく人がいるんです。必ず、なぜ2枚必要か聞いてください」
え?? 私は絶句しました。
2枚くらい、いいじゃない。1枚だと、すぐに剝がれたりするし。
どんな怪我をしているかの確認をする方が重要なのでは?
仕事中の怪我は労災になる恐れもある。
つぼねさんは、なんだか、ズレている。
「…そうですか、知らなかったです(今まで教えてもらってないから)」
その一言に、つぼねさんは反応しました。
「言い訳はいいから。普通は、絆創膏を何に使うか確認するでしょう?」
言い訳はいいから。
言い訳????
はあ???
何を言っているんだ。
つぼねさんと、私は価値観が全く違うのだと痛感した。
「なぜ、後から言うんですか?今、目の前で見ていましたよね?」
「ちょっと待ってください。言い訳じゃないです」
私は、自分でも驚くほど冷静に、きっぱりと断りました。
「なんで、終わった後から言うのですか??
今のやり取りを、あなたも目の前で見ていましたよね?
遠くにいたわけでもない、目の前にいるんだから、その時に仰っていただければ良いじゃないですか?!後から言うのはおかしくないですか?!」
つぼねさんは、ぐうの音も出ずに、黙って席に戻っていきました。
その様子は明らかに憤っていましたが、私もとうとう、堪忍袋の緒が切れてしまいました。
感情はかなり抑えたつもりでしたが、正論を言ってしまいました。
つぼねさんに、勝ってしまいました。
我慢に我慢を重ねて、限界を超えたので、ついに口答えをしてしましたが、気分は爽快でした。
やってしまった~~~。
つぼねさんが、あまりに理不尽なことを言うから、反論してしまいました。
目の前にいるんだから、その時に仰っていただければ良いじゃないですか?!
さっき、自分が言った言葉が頭の中を駆け巡り、なんだか誇らしくなりました。
本当は、感情的になるのは社会人としてあまりよくない行動ですが、一方的に攻撃されている場合は、
ガツンと言い返してみるのも効果的です。
(ただし、相手によります)
明らかに険悪な空気が漂いましたが、私は気持ちを切り替えて仕事に集中しました。
もう、まるで何事もなかったかのように、つぼねさんに話しかけるのです。
そう、相手の思い通りにはさせません。
「つぼねさん、お昼休憩に行かないと…」
(まだお昼ごはん食べてないですよね)
「…もう、いいから。ちょっと待って」
つぼねさんは、自分の仕事が一段落するまで休憩にも行けません。
彼女は、自分で自分を追い込んでいるように見えます。
やらなくても良い仕事を、わざわざやっているような感じです。
例えば、エクセルでコピー&ペーストした数値を、見直しているのです。
エクセルでコピペした数値が間違ってないか確認する作業、必要ないですよね。
(何してるの?と思いました。エクセルを疑う意味がわかりません)
「謝らないといけなくて。本当に申し訳ないです」
仕事がやっと終わりました。
「お先に失礼します。お疲れ様でした~~~」
颯爽と、私は退勤します。
休憩室を通り抜けてロッカールームに行こうとしたとき、同僚の事務員さんに呼び止められました。
「めっこさん。所長が、帰りに事務所に寄ってくださいとのことです」
え??所長が??
(まずい。もしかして、今日のつぼねさんとのやり取りが、何か問題になったのかな?
でも、そんなに問題はないと思うけど…)
事務所に行くと、所長が「お疲れ様です、すみません」と頭を下げてきました。
「めっこさんに、謝らないといけないことがあります。申し訳ないです」
え??所長が謝る?
「本当は、今日、めっこさんとつぼねさんと部長も交えて4人で仕事について話し合いする場を設けたかったのですが、部長に来客があって時間が取れませんでした。本当に申し訳なかったです」
ああ、そんな話があったなあ…と思いました。
「いえいえ、大丈夫です。部長もお忙しいですよね」
「あの、仕事の方はどうですか?つぼねさんから仕事は教えてもらえてますか?」
「実は、あまり仕事を教えてもらえていません。説明する時間がないからと言われて、なかなか業務内容を教えてもらえないです」
これは、本当の話です。
つぼねさんは、自分の仕事を終わらせることに必死で、新人の私に仕事を教える気がない様子なのです。
そのことを正直に伝えると、所長は難しい顔をしていました。
「ああ、そうですか…それは会社の方針とつぼねさんの考えが違う可能性もありますね」
「ちょっと、そこはわかりません。つぼねさんに確認していただいた方が良いと思います」
「本当は、めっこさんとつぼねさんも交えて、4人で話し合う予定でしたが、正直、どう思われますか?つぼねさんが同席していたら、話しにくくないですか?」
「…実は、話しにくいです」
「ですよね。では、別々にお話させていただきますね。めっこさんも仕事がしづらいのではないかと、他の社員とも話してたんですよ」
(良かった。なんとなく、こちらの苦しい状況は伝わっているのか)
なんだかわからないけど、間に所長と部長が入って話をしてくれることになりました。
つぼねさんが、パワハラや陰湿ないじめをしてくることには、言及しませんでした。
間違いなく、パワハラやモラハラに当たると思うけど、その話をしてしまうと、
彼女と仕事を一緒に続けていくのは難しいという話になると思ったからです。
彼女の言動に問題があることを相談するのは、私が「仕事を辞める」と決心した時の切り札として、取っておこうと思います。
他人を変えることはできません。つぼねさんをどうにかすることは、無理でしょう。
パワハラやモラハラの人に、「あなた、パワハラですよ」と言っても、きっと本人に自覚がないので
言うだけ無駄な気がします。余計に人間関係が悪化すると思うので、根本的に問題は解決しません。
それを踏まえたうえで、こちら側がどのように対処していくかが重要だと思います。
人間なので、合う・合わない・好き・嫌いなどはありますが、それを言っていたら会社は成り立たないし、組織で仕事はできません。
まだまだ、問題は未解決な状態です。
人間関係、これさえうまくいけば、大抵のことはなんとかなるのに…と思いました。
所長が、親身になって話を聞いてくれる人なので、なんとか私も仕事を続けられそうです。
頑張れるところまで、頑張ろうと思います。
でも。
頑張れないと思ったら、無理して頑張らないことを選びます。
世の中に会社はたくさんあるけれど、自分の体は一つしかありませんからね。
心身に不調をきたす前に、早めに休むことが大事だと思います。
