奥様のひとりごと~ヤクルト編①~

ひとりごと

玄関のドアを開けると、殺人的猛暑の中、営業マンが立っていた。
(営:営業マン)
営「お仕事の説明会のご案内に回っています」
私「?」

猛暑の中に、営業さん来る!訪問販売じゃなかった!

てっきり、ヤクルトの訪問販売だと思ったので少し驚いた。

(仕事なら、私も今探しているけど…ちょっと言いにくいなぁ)

営「今、お仕事はされていますか?
(直球で質問された。平日の昼間に家にいれば、仕事してないと思われるよね)

私「いいえ、今、探しているところです」

(嘘をつけば、ここでこの会話は終了するのだけど)

営「そうなんですね。どんなお仕事を探してるんですか?」
私「事務職を探してるんですが…なかなか仕事がなくて…」
営「そうですよね…なかなか、お仕事ないですよね~…」

(相手に寄り添い、聞き上手な営業マン。思わず本音を話してしまう私)

私「そうなんです、なので、今はパソコンの勉強をしています」

(本当はブログの勉強だけどね。パソコンの勉強と言えば聞こえがいいでしょ)

営「パソコンの勉強ですか、では前のお仕事もパソコンを使ってたんですか?」
私「はい、そうです。できれば事務の仕事をしたくて…」

営「そうなんですね、実は今度、ヤクルトレディのお仕事説明会を開催予定なんです。
 説明会に来ていただければ、ヤクルトや豪華賞品もプレゼントいたします。ご家族や
 お友達もご一緒に来てもらえますので、ご一緒にいかがですか?」

私「あー…その日は、ちょっと用事がありまして都合が悪いんです。すみません」
営「そうなんですね、別な日でも、個別に説明会は開催してますので、
 よかったらぜひ、LINEのお友達登録だけでもお願いします

(…どうしよう。LINEはあんまり登録したくないなぁ)

この日、最高気温は35度近かった。玄関先は、灼熱の猛暑だ。
私も、ドアを開けて立っているだけで、立ち眩みがする。

営業マンも、汗だくで顔も日に焼けて真っ黒になっている。
大丈夫かなと、心配になるレベルの暑さだ。

いつもなら、「すみません、結構です」と一言で断るが、
こんな暑い中、わざわざ訪問してきたのかと思うと、
かわいそうに思った。思わず同情してしまう。

「ヤクルト1000」ゲット!!

しぶしぶながら、LINE登録した。名前と、住所も送信するように言われた。
断り切れず、言われるままに個人情報を送信した。
(断っても、住所はすでにバレバレだよね)

営「ご登録ありがとうございました。ご登録いただいたお礼に、
 ヤクルトを差し上げます!」

7本入りの「ヤクルト1000」だった。
もらいすぎだと思った。1本で十分だ。

私「え?説明会には行けないのに、本当にもらっていいんですか?」
営「はい!ぜひどうぞ」
私「ありがとうございます!!」
営「お仕事説明会も、随時行ってますので、
 また都合の良い日がわかればご連絡ください」
私「…はい、予定がわかればまたご連絡します」
(たぶん、連絡しないけどね)

ここだけの話だが、営業マンは、
「LINEをご登録いただいたので、お仕事説明会に来られない場合
 (LINEを)ブロックして頂いて大丈夫です」と言った。
え??ブロックしていいの?
ああ、そうか。私がお仕事説明会の日程を決めるのを断ったから、
脈なしと判断されたのだな。

あまりよく覚えていないが、この時の私は、暑さでめまいがしていたので、
営業マンに、「こんなに暑い中、来ていただいてすみません」的なことを
言ったような気がする。

しかも、その日は昼寝していてチャイムが鳴って
飛び起きて玄関に出ていったので、
すっぴんにマスク一枚だったと思う。

油断しているときに限って、来客があるんだよなぁ。
恥ずかしいと思ったのは、もっと後になってからである。

営業に向いてないのは百も承知だけど…

無料でもらったヤクルトを飲んだ。
あっさりした甘さで飲みやすく、おいしかった。
なんだか懐かしい味だった。


それもそのはず。
私の家も、昔、ヤクルトさんを取っていた。
まだ私が小学生の頃だ。

ヤクルトレディが毎日、2本ずつ届けてくれていた。
玄関先の門の扉に、緑色のケースが設置され、そこにヤクルトが入っていた。
台風が来る前や、連休前には、数日分が余分に届いていた。

雨の日も、晴れの日も、寒い日も、暑い日も。

担当のヤクルトレディの名前は忘れたけど、
お顔はなんとなく覚えている。

礼儀正しく、真面目な方だったと記憶している。
集金の時も、いつも大きな声であいさつをしていた。


ヤクルトを届ける以外に、
世間話などは、ほとんどしていなかったと思う。
母も、そんなに世間話は得意じゃないので、
きっとその方が気楽だったと思う。

いつも黒っぽいTシャツ姿で、
いまのヤクルトレディが着ているようなかわいい制服は
着ていなかったような気がする。


何しろ、30年以上前の話だ。



お仕事説明会のチラシを見た夫が、
「行ってみたら?」と言う。


私は、営業は向いていない。
人に物を売るのがとにかく苦手だ。

ましてや、飛び込み営業など、もってのほかである。

だけど、仕事が見つからないので、
何もしないのも気が引ける。
説明会だけでも、行ってみようかなと、心が揺れ始める。
そういえば営業マンも言っていた。

「説明会だけ来ていただいて、お仕事はしなくてもいいです」

ご来場者全員に、豪華特典!の文字。
ヤクルトと、高い化粧水(CMで話題の人気ナンバーワン)
別に、化粧水はいらないんだけどなぁ…。
(肌が弱いので、無添加でないと、肌トラブルを起こすから)

タダより高いものはない…のだけれど。

考えても仕方がない、これも何かのご縁。
数日後、説明会だけでも行ってみようと決心するのであった。




次回へ…つづく。

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